高齢者や視覚障がい者に配慮した照明計画の提案

照明探偵団シンポジウム in 仙台(場所:せんだいメディアテーク)
2012年10月6日
宮城大学3回生(当時)
中條千比呂さん

私は震災時、家族で家を出ており、外で大きな揺れに遭いました。
その直後は、家に帰ればいつもの生活に戻れると考えていました。しかし、家に帰ってみると普段の地震ではびくともしない家具が倒れており、もとの生活には戻れないことを実感しました。そして、夜になるにつれて、電気がつかず照明が無いことに不安を感じました。

電気が復旧し、いつもの生活に少しずつ戻ってきた頃、テレビで東京で行っている節電のニュースを見ました。それには、スーパーの電気はほぼつけず、商品が見える最低限の照明で過ごしている姿が映されていました。私は、震災後、明かりがついてとても安心したことを思い出しましたが、それと同時に、コンビニや近くのスーパーなどの明かりが、夜に見るとまぶしすぎると感じたことを思い出しました。

高齢者の方などは、グレアを私たちより感じることが多いと聞きます。そういった人たちのことを考えた上で、ここまで照明を明るくする意味があるのかと改めて考えさせられました。

私は、高齢者や視覚障がい者などに配慮した照明計画を提案します。
輝度を考慮した照明計画の実践
《提案動機・理由》

1. 輝度(※)を考慮しない照明計画はグレアを引き起こす。
蛍光灯やLED、メタルハライドランプなどの照明を設置する際、光源をむき出しにすることが多い。しかし、これは見る人によってはまぶしさーー"グレア"を感じさせる。
グレアは、程度によっては不快感だけではなく、状況把握能力の低下による事故などにもつながってしまう。特に、LEDを使った街路灯は極端にまぶしさを感じる人が多いというデータも出ている。

2. 白内障はグレアをより感じやすい。
白内障とは、加齢と共に水晶体が白濁、黄変していくものだが、これは高齢者ほどグレアを感じることが多くなることと関係している。水晶体が白濁すると、水晶体を透過する光が散らされて眼内で散乱する。結果、覆いかぶさる散乱光が多くなると、物がぼやけて見たいものが見られない状態になってしまう。グレアを感じることが少しでもなくなるためには、白内障の人に考慮した照明を考える必要がある。

(※)「輝度」とは...目に入る光の量のことを指します。
輝度が高いほど目に入る光の量が多くなり、目への負担や刺激が大きくなります。一方、輝度が低いほど、目に入る光の量が少なくなると言えます。
照明探偵団シンポジウムin仙台3-1
《実践例》

1. 光のグラデーションをつくる。
以下のように、行動や時間帯に則った動線を元に照明計画を考え、徐々に明るさを変化させていく。
〔帰宅時〕「外玄関 → 中玄関 → 廊下 → リビング・キッチン」の順で照明が明るくなるようにする。
〔就寝前〕「キッチン・リビング → 風呂・トイレ → 寝室」の順で照明が暗くなるようにする。
夜に帰宅した際、暗い屋外から玄関に入った時にまぶしさを感じることがある。行動に応じた動線を考慮して照明計画を行うことが必要ではないか。

<補足>
夜中、トイレの照明が明るくて目が冴えてしまったことはありませんか?これは、強い光によって睡眠を誘発するメラトニンが抑制されてしまうからです。行動や時間帯によって光を切り替えることで心地よい睡眠を得ることができます。
例)就寝時:赤くて弱い光の間接照明を使用する。
  就寝時以外:青白くて強い光の天井照明を使用する。

2. 照明にカバーをつける
照明にカバーをつけることで光を拡散させ、強い反射光を軽減。目に入る光量を減らしてグレアを抑える。
※安全面からも、カバーがついている照明を選ぶことをお勧めします。

<補足>
明るさを確保しようとして、シーリングライトなどで強い光を使うと、空間に明るい部分と暗い部分ができやすくなります。この状態下では実際の照度は確保されても、暗い部分が目にはいることで「暗い」と感じやすくなってしまいます。また、明るさのコントラストが強いとくつろぎ感を感じにくくなるため、明るさの分布に大きな差を持たせすぎないことが重要です。

《期待できること》

1. 人にやさしい光環境づくり
目の負担が減るほか、人間の生体リズムを整えることができる。

2. 省エネ効果
直接照明と間接照明を使い分けることで省エネに繋がる。
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視認性・安全性を考慮した特定色の照明の制限
《提案動機・理由》

1. 青色LEDはぼやけてみえる
最近よく見かけるようになった青色LEDは、まぶしさを感じるとともに目のピントがよく合わない。これは、人間の目や脳が緑−黄−赤の光に焦点をあわせていることに起因している。結果、青い光は常にぼやけている状態である。「省エネ」ということは確かでも、人間の生活において危険なものになるとは避けなくてはならない。
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<補足>
短波長光である青の光は角膜や水晶体で屈折する際、 収差(ぼけ)が大きくなります。通常は、網膜内のS錐体の数が少ないことや脳での処理によって、その感度・解像度の低さは気付かれにくいとされています。 しかし、青色LEDは単色性が高く(波長分布がとても狭く)、強い光であるため、ぼけを感じてしまうのです。

2. 視認性・安全性が求められる場所でも乱用されている。
ピントが合いにくいのに、案内や誘導に青色LEDを用いられているのをよく見かける。信号機の「青」は実際は緑色であり、青色は使われていない。信号機に緑-黄-赤を使っているのも、視認性を高くするためである。
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実践例と期待できること
《実践例》

特定色に対して使用制限の規制を設ける。
案内表示や誘導など、高い視認性が求められる場所や場合では青色LEDの使用を制限するような規制を行う。

《期待できること》

確実な情報伝達や作業効率を上げることができる。
視認性を高めることでスムーズな情報伝達や作業の集中力アップに繋がる。

ヨーロッパでは「輝度制限法」によって照明器具の輝度が制限されており、道路や照明設計に関して、グレア防止のための法規が整備されています。グレア対策や特定色の照明の制限など高齢者や視覚障がい者などに配慮した照明計画が必須となると思います。
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