一雨ごとの暖かさに春を感じる今日この頃。
欧州では、まもなく冬時間が夏時間に変わります。
黄色と白色の水仙の花が咲き乱れ、まるで春を歓迎しているかのようです。
前回は赤と白についてお話をさせていただきました。
<参照:世界の色彩〜アントワープから色と光の風景>

今回はその話の続きからスタートしたいと思います。

古代エジプト人は白を光や輝き、赤は太陽を表し、白いピラミッドは太陽光線の象徴だったそうです。古代中国では白は方角の西を、朱(赤)は南を表しています。北半球にある中国では日当たりのいい場所、太陽の色が赤、お祝いの色でもあります。ちなみに白は猛獣のトラ、朱(赤)は鳥を表すそうです。

キリスト教では、赤と白の組み合わせはキリスト教の真実とその力を表し、クリスマスカラーの由来にもなっています。コカコーラの広告は、このクリスマスカラーの組み合わせをお馴染みのものとして認識させました。クリスマスカラーの赤の起源は赤い衣裳ですが、今、みなさんが思い浮かべる明るい赤になったのはコカコーラからです。赤は神の愛に恵まれた暖かな色、キリストが流した罪の血、緑は不死を象徴する聖なる木の色を表しています。

日本でも、赤の語源は血、「いのち」の根源です。フランス革命では赤い帽子をかぶり、連帯感を強めたそうです。赤は血の色をイメージさせはしますが、死には結びつかず、「血気盛ん」のような生命力、元気さを表しています。

白は世界共通で「清浄」と結びつけられていることが多いです。例えば、白い動物は吉兆とされるが多く、特に白い鳩は(混乱や不安の後の)平和な世界の到来を知らせてくれる鳥、新約聖書のなかでも聖霊とされています。

また、現在、ウェディングドレスは白が定番ですが、以前は明るい炎の色に似た黄色でした。変わったのは、16世紀のイギリスやフランスからです。花嫁の純潔を表すのは白が良いのではないかとの話になり、18世紀には業界が白しか作らないことを決め、現在に至ったと言われています。日本でも、花嫁が一番上に羽織る着物は白ですね。

そんな時代、ベルギーでは19世紀末から20世紀初期の第一次世界大戦前、黒のウェディングドレスが流行しました。私たちは、黒を葬儀の色だとイメージしますが、中国では白だそうです。日本でも喪主は白をつけるものとなっています。紋章学でも赤と白を使ったものが多くあります。

白色は銀色とも言い、平和と誠実さを表します。
赤色は、旧仏語でGules。つまり軍人、犠牲者、殉難者、殉職者の意味です。

清らかな白にあざやかな赤のマントを羽織ったナポレオン一世が妻のジョゼフィーヌに王冠を送るジャック・ルイ・ダビット(1805〜1807年作)の「ナポレオンの戴冠式」をご存知でしょうか。この作品は、1804年ノートルダム寺院で行われた盛大な戴冠式を描いた油絵で、背景に並ぶ人たちの名前もすべてわかっています。写真のないこの時代の情景を後世まで残した、原画の大きさが931.0×610.0cmのルーブル美術館でも最大級の油絵です。この作品はまさに赤と白をバランスよく使い、荘厳な祝賀の場面を表現しています。

中世の絵画などを通して、王が羽織るマントは赤と白が多いことをお気付きの方も多いかと思います。マントの生地はヤマイタチの毛皮を使い、赤く染めるにはギリシャの方に生息する昆虫が必要でした。昆虫がとても貴重あったので、赤はとても高価な色でした。

絵画でも、赤は貴重な色でした。
現在の朱色に近いバーミリオンで、今でも高価な絵の具ではありますが、当時は材料となる鉱物は特に手に入りづらかったようです。

ビザンチンの時代は、王様は紫色に近い赤い衣裳を着ていました。高貴な色として、紫・青・赤があります。日本でも時代を辿れば、欧州と同じような色が高貴な色とされています。
反対に、欧州の中世の頃の平民は緑や茶色の服を着るのが普通だったようです。ピーター・ブリューゲルの絵に出てくるような庶民の装いです。

今回はこのへんにしておきましょう。
次回もまた世界の色のお話をさせていただきます。
ぜひご期待ください。

●記:出原美津江「世界の色彩〜アントワープから色と光の風景2」
2008年3月25日ベルギー王国、アントワープ市から

出原美津江(いではら・みつえ)

画家
王立アントワープアカデミー美術大学、アントワープ在住

[ 経歴 ]
岡山市生れ。
京都・成安女子短期大学卒業後、渡仏。パリ、アカデミーグラン・シュミエール美術学校、王立アントワープアカデミー美術大学に学ぶ。



[ ベルギー王国 ]
ベルギー王国は、西ヨーロッパの立憲君主制の連邦制国家。隣国のオランダ、ルクセンブルクと合わせてベネルクスと呼ばれる。欧州連合(EU)加盟国で、その本部が首都ブリュッセルに置かれている。

オランダ・ベルギーの位置と国旗


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